2019年10月アルゴアさん来日。2時間30分のプレゼンテーションの要約
米国の元副大統領であるアルゴアさんが来日し、The Climate Reality Projectのトレーニングを行いました。
アルゴアさんは、気候危機についての3つの課題について話しました。
1. 変えなければならないのか
2. 変えることができるのか
3. 変える意思があるのかの3つです。
答えは「イエス」。変わらなければなりません。
これらの疑問に対するエビデンスの中には、心情的に受け入れにくいものもあると思います。損害は既にもたらされているのです。多くの危険が表面化しています。だからと言って、気を落とす必要はありません。それは残りの課題である「変えることができるのか」「変える意思があるのか」の答えは非常にポジティブだからです。なぜ大きな変化が必要なのかというエビデンスは非常に重要だと言います。温室効果の仕組みは、太陽の光が空を貫通し地球を暖めます。その一部は赤外線として宇宙に戻りますが、一部は大気中に閉じ込められます。このことで、地球の温度のバランスが地球上の生命にとって最適なものとなるのです。地球は太陽系の他の惑星に比べて理想的です。金星ほど暑すぎず、火星ほど寒すぎません。金星が暑いのは、大気中のCO2の量が地球に比べて非常に多いからです。さらに金星では酸性の雨が降ります。さて、人類は地球の大気に多くのCO2を排出しています。毎日地球温暖化の汚染物質を大気中に放出し、金星と同じような状態に近づけてしまっているのです。これが地球温暖化です。1年のうち極端に暑い日は増加傾向にあり、現在では30年前に比べて150倍と言われています。日本における年間の平均気温はどんどん上昇し、このまま温暖化が進めば、今世紀中に今より5.4度上昇すると予測されています。世界の各地で気温の上昇によって人間が住めない地域が出てきています。2019年になってからこれまでで、世界の361箇所で観測史上の最高気温が記録されています。地球の気象システムはエンジンのようなものです。正常であれば、風や水の流れによって、熱帯から極地に熱を再配分し、温度がばらつくようになるのです。しかし温暖化により、例えばジェット気流の方向も変わってしまっています。地球全体で93%の熱が海洋に吸収されると言われています。海はスポンジのような役割を持ち、熱と二酸化炭素を吸収してきましたが、この働きが追いつかなくなっています。これは、非常に危険な状況です。大気の気温が上がれば、大気中の水分の含有量が上昇します。カテゴリ5の驚異的な勢力のハリケーンも多く起こっています。日本でも、2005年には大阪は台風により160億ドルの損害をうけました。フィリピンでは台風30号で400万人が家を失いました。「気候の大きな影響は最も貧しい人々に多大な苦しみを与える」のです。だからこそ世界中で気候正義が叫ばれています。N.Y.で壊滅的な被害をもたらしたハリケーン「サンディ」。過去には、この規模の台風は500年に一度発生すると言われていましたが、それが25年に一度に修正され、今後の10年では5年ごとに一度発生すると言われています。皮肉なことに、気候の変動は豪雨や洪水とともに干ばつをもたらします。水不足は食料不足に直結します。ソマリアでは540万人が深刻な食糧不足に直面しています。2018年、イランで深刻な干ばつがあり、経済的損失は40億ドルにのぼりました。世界の海の酸性度は、産業革命以前より30%上昇しています。海中にCO2が蓄積されているのです。これにより、気候危機の深刻な影響が多様性を失わせています。海面上昇によってもっとも大きな影響を受けている都市は東南アジアが多く、経済的な損失では東京も上位に入ります。世界の平均気温が2度上昇すれば、海面上昇によって日本では1800万人が住居を失います。
さて、転換点がやってきました。
私たちは判断しなければなりません。
世界中のどの国でもやらなければならないことがあります。
私たちの手には解決策があります。「変えることができるのか」という疑問の答えはここにあります。
そしてこれから先、「変える意思があるのか」。2000年時点で、世界の風力発電量は2010年までに30ギガワットに達すると予測されていました。現在、この予測の20倍の電力量が風力で発電されています。化石燃料による発電コストよりも安いという地域は、現在では世界の2/3の地域がそうなっています。これは間違いなく良いニュースです。日本でも太陽光の発電量が増えています。感動的な数字です。太陽光による発電コストが既存の発電コストよりも安くなる「グリッドパリティ」が世界中で達成されています。グリッドパリティは例えるなら0度と1度の違いであり、この1度の差は水と氷の違いがあるのです。市場ではこの違いは投資の魅力となります。2010年以降、再生可能エネルギーへの投資が増えています。インディアナ州で行われた調査では、「経済的合理性を考えれば、石炭やガスを燃やし続ける理由はない。誰にとっても太陽光や風力を利用して発電したほうがいい」という結果が出ています。これは経済的な意思決定です。米国で今もっとも雇用が伸びているのが太陽光発電関連の業界です。石炭関連の5倍近い雇用です。石炭はもはや過去のものです。国民にとっては、未来は太陽光や風力なのです。これまで30カ国が非石炭電力供給のアライアンスに加盟しています。これは非常に有望なトレンドとなるでしょう。東京では初めて自治体が排出量取引制度を導入しました。日本は何ができるのでしょうか。パリ協定を掘り下げるより強いコミットメントをすることが求められています。新しい石炭火力発電に投資するのではなく、太陽光、風力、地熱に投資をしてはどうでしょうか。もちろん、国内で新しい石炭火力発電の建設を止めるということもひとつの手だと思います。石炭火力発電への補助金をやめるということも考えられます。地球温暖化の原因の1/4は建物のエネルギー効率の問題とも言われています。この先、政府のイニシアティブが重要になります。実は石炭より太陽光や風力の電力のほうが安いのです。収益性も上がります。政府が変われば皆が幸せになります。これは重要なことです。一方、日本企業は日本政府に先駆けて再生可能エネルギーの導入に取り組んでいます。これはとても頼もしいことです。
世界全体が地球の危機を認識し、変えなければならないと感じています。
「最後にNOが出たあとにYESがやってくる。そしてこのYESにこそ、未来の世界がかかっている」という言葉があります。世界でさまざまな革命がおこるとき、最後にNOという大きな声が起こります。そして選択を続ければ、YESという答えが出てくるのです。私たちはこれからきちんとした判断をしなければなりません。私たちには地球温暖化を止める権利があり、力もあります。地球温暖化は大きな脅威です。皆の力を合わせ、皆をよりエンパワーメントすることが必要なのです。皆の将来を救うということに力を貸して頂きたいと思います。